根管治療で使う薬剤の注意事項〜次亜塩素酸ナトリウムと水酸化カルシウムの危険性について〜
こんにちは。いつもブログを読んでいただき、ありがとうございます。
だんだん暖かくなってきましたね。この冬はそれほど寒くなく、比較的過ごしやすかったのではないかと思います。みなさまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回は、根管治療で使う薬剤:次亜塩素酸ナトリウムと水酸化カルシウムの危険性についてお話しします。
「備えあれば憂いなし」
です。そして、危険事態を
起こさないようにする
ことが、最も大切です。
危険事態について、考えておかなければならない一番重要なことから順番に、
1.危険な出来事が起こらないように予防策をたてる
2.危険な出来事が起きた時に、少なくとも人体にはなんの影響もおよぼさないこと
3.危険な出来事が起きた時に、素早い対応ができる知識を持ち環境整備をしておくこと
4.必要に応じて医科との連携
ももこ歯科では、以前のブログでお話ししたように、根管治療で使う薬剤の危険性を考えて、患者さんの目にゴーグル(図2)、お顔にはタオル(図1)、洋服の上はバスタオルあるいはブランケット(図4)をかけています。治療中に使う次亜塩素酸ナトリウムやEDTAを入れている注射筒(シリンジ)はロック式(図3)を使っています。シリンジを押す圧と針に入る洗浄液の量に不均衡が生じたとき、針が注射筒からはずれてしまい、洗浄液が筒先から勢いよく飛び出すことがあります。このようなできごとを防ぐために、ロック式のシリンジを使っています。
では、実際起こった過去の報告から3つ挙げてお話しします。
1. 次亜塩素酸ナトリウムが患者さんの目に入ってしまった報告(1)について
15歳男性の患者さん。歯科医師が5.25%次亜塩素酸ナトリウムで根管を洗浄中、洗浄針がシリンジからはずれてしまい、次亜塩素酸ナトリウムが患者さんの右目に入ってしまいました。その直後から、患者さんは、右目と右の鼻あたりに焼けるような痛みを訴えました。10分間目を洗浄しても症状は消えず、眼科医を受診し、15分間1ℓの生理食塩水で右目を洗浄しました。2日後には、症状が消えて、臨床的に治癒を認めました。
2. ヒポクロアクシデントについて(2)
32歳女性の患者さん。根管治療中、機械的拡大を行っている際、担当歯科医師が歯根の先を超えて器具操作をしたらしく、次亜塩素酸ナトリウムで根管を洗浄していたら、患者さんは顔面の痛みを訴え、図5のように左顔面に腫脹、浮腫が出現しました。これをヒポクロアクシデントといいます。
CBCTを撮影してみると、図7の矢印で指しているところは、次亜塩素酸ナトリウムの停滞が推測され、切開し、薬液を排出させました。次亜塩素酸ナトリウムは、頬部の皮膚にまで到達しており、図8の矢印でさしている気泡は、次亜塩素酸ナトリウムと思われます。その後、患者さんは抗生剤を内服し、6日後には、図6のように左顔面の腫脹は大幅に軽減されました。
1,2の事例をもとに、次亜塩素酸ナトリウムが人体に悪影響を与えないようにする事前対策を図8に示します。
①ロック式シリンジを使って、洗浄針がシリンジからはずれないようにする。
②歯根の先に器具が出てしまうような機械的拡大(器具操作)は避ける。
③針の先端に穴があいている洗浄針ではなく、穴が横についている洗浄針を使う。
④針にストッパーをつけて、不必要に根管内へ洗浄針を入れないようにするとともに、上下にシリンジを動かしながら圧の調節をする。
では最後に。患者さんやスタッフに対して安全対策を行うことは、歯科医師として何よりも優先すべきことです。しかし、歯科医師は、自分自身の身を守ることを決して忘れてはなりません。歯科医師の身を守ってくれるのは、自分自身だけです。
3. 水酸化カルシウムが歯科医師の目に入ってしまった報告について(3)
女性歯科医師が、根管貼薬をしようと水酸化カルシウムが入っているシリンジを根管に入れたら、ニードルの先がつまっていることに気づきました。よく見ようとかけていたゴーグルをはずして、つまりを取り除こうとした時、注射筒の押し子を押していたために、水酸化カルシウムが勢い良く出た結果、歯科医師の目に入ってしまいました(図9)。その後、歯科医師は、目を水道水で洗浄し、30分後には眼科医を受診したにもかかわらず、失明しました。
過信は禁物で、薬液の取り扱いにはいつも細心の注意をはらわなければなりません。
次亜塩素酸ナトリウムの2ケースについて、患者さんの回復は不幸中の幸いでした。
しかし、水酸化カルシウムのケースは、もしゴーグルをはずさなかったら、もし押し子を押していなかったら、最悪な事態は避けられていたでしょう。
「備えあれば憂いなし」
です。
(1)Ingram, Timothy A. “Response of the human eye to accidental exposure to sodium hypochlorite.” Journal of endodontics5 (1990): 235-238.
(2)Behrents, K. T., M. L. Speer, and M. Noujeim. “Sodium hypochlorite accident with evaluation by cone beam computed tomography.” International endodontic journal5 (2012): 492-498.
(3)Lipski, M., J. Buczkowska-Radlińska, and M. Góra. “Loss of sight caused by calcium hydroxide paste accidentally splashed into the eye during endodontic treatment: case report.” Journal (Canadian Dental Association) 78 (2012): c57.