穴があいてる歯は治るか〜part2 根尖部穿孔経過良好編〜
ももこ歯科のブログを読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。
今日のブログは、穿孔がある症例を挙げてお話しします。
症例の全体像
患者さんは33歳男性。
初診日:2018年4月21日
治療開始日:2018年12月1日
主 訴:弱い痛みがあるから、右でかめない。
現病歴:2017年末から右下が腫れて痛みもあり、他院で根管治療をしているが、腫れと軽度の痛みが続き、時々膿が出ると腫れは引くが痛みは取れない。前医より、痛みが取れなければ、根が割れてるかもしれないので抜歯をした方がいいといわれた。
患者さんは抜歯を避けたいのと、根が割れているかどうかの精査も含め、ももこ歯科を受診されました。
診査の結果、原因の歯は右下顎第二大臼歯と判明しました。
ただし、右下顎第二大臼歯の歯周ポケットが限局的に5mmと深いところがありました。
診断:根尖性歯周炎もしくは破折、あるいは穿孔
治療方針:根管治療、抜歯、投薬
穿孔があれば修復は必要で、歯周ポケットが限局的に5mmあるので根が割れているかもしれないから抜歯でもいいのではないか、とお話ししましたが、患者さんは根管治療を選択されました。
では、穿孔を修復後治った理由を考察します。
穿孔があるケースの予後に影響する4つの要素
1. 穿孔までの時間について
穿孔後できるだけ速い修復が治癒をもたらします。この症例の場合、穿孔が起きてから修復までは、最短でも約1年かかっていますので条件が悪そうです。穿孔してから時間がたてばたつほど、歯周組織へ炎症が広がりますから、穿孔してから素早く修復することは、患者さんの気になる症状を治す確率を上げてくれます。
2. 穿孔のサイズ
やや大きめです。大きい小さいの基準は、Tsesisら*の報告によると、穿孔修復後経過良好な穿孔のサイズは#20以下(直径0.2mm)だそうです。この症例の場合は術中のレントゲンで確認したところ#70のファイルが根尖まで到達できましたので、穿孔のサイズは大きいと判断しました。穿孔のサイズが小さいと修復は簡単だし歯周組織へのダメージが少なく治癒しやすいのですが、穿孔のサイズが大きいと歯周組織がダメージを受けやすくなるため、炎症を起こし、細菌感染の確率が高くなり、治りにくくなります。
3. 穿孔の部位
根尖が穿孔していました。穿孔修復後の経過が比較的良好なところです。
穿孔している部位により、患者さんの気になる症状が改善できる確率が変わりますので、前回のブログを参考にしてください。
↓
4. 封鎖
穿孔した部位は、滲出液が非常に多く封鎖は非常に難しかったです。排膿を認めたことから炎症が強く、患者さんが弱い痛みがなかなか取れない、と言ってたことも納得します。封鎖性を高めるために穿孔した根尖をMTAで充填しました。
ここでは余談になりますが、滲出液が多いからといって根管充填を先延ばしにすることはないです。根管充填は、細菌の通り道を塞ぐことが目的です。根管がきれいになったと判断した時点で次にやることは、細菌の通り道を塞ぐ根管充填です。
症状が改善したのはなぜか?
ではなぜ治ったか。直接的には細菌による炎症が改善したから。炎症が改善した理由の大部分は、根尖部の穿孔によって炎症が根尖孔外に広がっていたけれども、根管をきれいにしたおかげで炎症は治り、根尖を封鎖したことで歯周組織へのダメージが改善できたからではないかと思います。穿孔してから修復までの期間が長く、大きな穿孔があったとしても、やれることを全部やったおかげで患者さんが悩んでいた症状は改善し、現在でも日常生活で支障なく過ごせていると思っています。
結局、治療をしてみないと治るかどうかがわからないのです。しかし、あくまでも私見ですが、根尖部が大きく穿孔していたとしてもこの症例のように治るケースは、根尖部の清掃ができている場合で、治らないケースは根尖部が清掃できていない時、いわゆるレッジやトランスポーテーションを起こしていると治る可能性が低いかもしれません。レッジやトランスポーテーションについては後日改めてお話しします。
次は、穿孔を認めるが根管治療では結果が出ず、歯根端切除術を施行した症例についてです。
お楽しみに。
*参考文献
Tsesis, I., & Fuss, Z. V. I. (2006). Diagnosis and treatment of accidental root perforations. Endodontic Topics, 13(1), 95-107.