ももこ歯科での根管治療〜サイナストラクトは治るのか〜
ももこ歯科のブログを読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。
今回のブログから、ケースレポートです。
みなさまが、ももこ歯科での根管治療をどのように進めているかを知っていただくことを目的としています。
今回から、サイナストラクトがあるケースをいくつかレポートします。
サイナストラクトがあっても治癒するケースと治癒しないケースがあります。今回は、治癒したケースをご紹介します。
40歳 男性
主訴:左下の歯肉に腫れがある。抜きたくない。
現病歴:
2008年ごろ 左下6根管治療を行った
2022年6月ごろ 同部にサイナストラクトが出現し、掻爬をしてもらったが治癒せず、
2023年12月 ももこ歯科を受診
診断のステップ
まず、原因歯を特定し、次に原因歯の検査を行い、原因歯の状態と患者さんの主訴がどうつながっているのか考察します。
原因歯の特定
サイナストラクトが左下6頬側にあったとしても、原因歯が左下6とは限りません。ポイント造影は必須です。
左上の口腔内写真は、サイナストラクトからガッタパーチャポイントを入れたところで、右上のレントゲンから、原因歯は左下6と考えられます。
しかし、ポイント造影を行っただけで、サイナストラクトの原因歯を特定したとは言い切れません。
では何をするべきか、次の原因歯の検査でお話しします。
原因歯の検査
本症例は、サイナストラクト以外に患者さんが気になる症状はありませんでしたが、一連の根尖性歯周炎に関する諸検査と隣在歯の検査も行います。
左下6には、打診痛はなくポケットは正常範囲内、動揺は生理的動揺を呈し、根尖部圧痛を認めました。
隣在歯の歯髄と根尖周囲組織の診査の結果は生活歯でしたので、サイナストラクトの原因は、左下6と判断しました。
術前のデンタルは、最低2方向から撮影したものと、サイナストラクトがある場合はポイント造影1枚、合計3枚を撮影します。本ブログには、ポイント造影のみ載せていますが、実際は合計3枚のデンタルとCTを撮影しています。
診断は、左下6既根管治療歯・症状がある根尖性歯周炎です。
サイナストラクトの原因は根尖性歯周炎ですから、掻爬をしても治癒は臨めません。
『なぜ治らなかったか』を考察する
以前の根管治療で治癒しなかった理由を考えます。
根尖部のトランスポーテーションはなさそうです。クラウンの適合は悪くはありませんでした。根管充填の状態も悪くなさそうですが、近心根のコアとガッタパーチャの間にスペースがあります。それから、無菌的処置を行なっていたかどうかは気になるところです。
患者さんには、治療法には根管治療と抜歯があること、それから、根管治療の成功率と、根管治療でサイナストラクトが治癒しなければ歯根端切除術を行うこと、歯根端切除術後にサイナストラクトの再発や、痛み腫れ等々の症状がある場合は、抜歯あるいは症状によって非歯原性歯痛の専門医を受診していただくこと、治療中に歯根破折や、大きな虫歯があってかぶせても耐久性がない歯であると判断した場合は治療を中断すること、などをお話ししました。患者さんは、根管治療をご希望されたので、治療を開始しました。
治療中の所見
左上がコアを外した後で、髄腔内をう蝕検知液で染色し、感染歯質の有無を確認しています。
近心根をみると、汚れていることがわかります。コアと根管充填剤の間のスペースが汚染されていたようです。右上の写真は、根管充填剤を除去後に近心舌側根管から排膿を認めます。近心頬側根管からは排膿はありませんでした。
以上を考えると、サイナストラクトの原因は主に、根管の清掃不足が考えられました。当院での根管治療は、以前のブログでお話ししたように、歯内療法の基本コンセプトを遵守しています。きちんとしたルールに則って根管治療を行った結果、2回目の治療時には、サイナストラクトを認めませんでした。
術前術直後と術後3ヶ月経過観察時のレントゲンです。
近心根の根尖部透過像は縮小傾向にあります。
つづいて、気になる口腔内の様子です。
左下6サイナストラクトの治癒がわかります。
打診痛、根尖部圧痛はなく、歯周ポケットと動揺は正常範囲内で経過良好です。
『なぜ治ったか』を考える
まずは、基本コンセプトを遵守した根管治療を行なったから、サイナストラクトは治癒したと思います。
ラバーダム防湿はもちろんのこと、NiTiロータリーファイルによる根管形成、次亜塩素酸ナトリウムとEDTAによる洗浄効果、水酸化カルシウムの貼薬効果がサイナストラクトの治癒につながったと思います。無菌的処置は重要です。
とはいえ、基本コンセプトを遵守した根管治療でも、サイナストラクトが治癒しないケースもあります。根尖部のトランスポーテーションや、重度の根尖孔外感染が起きていたり、深い歯周ポケットをともなう根尖性歯周炎(歯内歯周病変)の場合は、根管治療のみで治癒することが難しいです。
本症例の場合は、歯周ポケットは正常範囲内で動揺は生理的範囲内、根尖部のトランスポーテーションが起きていない=根管の解剖形態が破壊されておらず、重度の根尖孔外感染が起きていなかったことが、根管治療のみでサイナストラクトが治癒したのではないかと考えています。
今回は以上となります。
次もサイナストラクトシリーズは続きます。
お楽しみに。