NiTiファイルの歴史編〜ファイルの進化について2〜
ももこ歯科のブログを読んでくださるみなさま、いつもありがとうございます。
あっという間に2月になりました。というか、2月ももう終わりそうですね。日が長くなっているのはとても嬉しいのですが、まだまだ寒いです。みなさま、体調管理には十分にお気をつけください。
早速ですが、NiTiファイルの進化『運動』について、今回はお話ししていきます。
NiTiロータリーファイルの運動の進化について
第三世代までのNiTiロータリーファイルは、単純に回転運動のみでした。第四世代になると、往復運動をするNiTiロータリーファイルが誕生し、シークエンスは激減しました。
第四世代NiTiロータリーファイル
往復運動の起源は、1985年に、根管の湾曲の曲率を克服する手段としてRoaneによって開発されたbalanced force techniqueです。balanced force techniqueは、90°正回転させながらファイルを根管に挿入し、ファイルの先端に抵抗を感じたところで、反時計回りに180〜270°回転させます。往復運動は、回転軸が常にファイルの中心に位置し、オリジナル根管から逸脱しにくい動きで、トランスポーテーションが少ない、と言われています。
第四世代のWaveOneというファイルを例にとって、往復運動をお話しします。
理論上、3回往復運動すれば360°回ることになります。150°逆回転30°正回転、これを3回繰り返すと360°になります。この逆回転の動きで根管内を切削するので、他のファイルとは反対に、左巻きのデザインです。シークエンスは、#21, #25, #40と3本で完結という少なさです。手用ファイルでbalanced force techniqueを使うと多くのシークエンスが必要ですし、時間もかかりますが、NiTiロータリーファイルでこの往復運動を応用できれば、診療時間は大幅に短縮され、術者も患者さんの疲労も軽減できます。ファイルの先端から3mmまでは、テーパーが8%と一定で、ファイルの先端から4mmからテーパーが減少する理由は、根管上部の歯質の切削量を減らすためです。
往復運動は、理論上、ファイルの回転軸が常にファイルの中央にあるので無理なく根管を形成できるため、グライドパスは不要、という意見もあるようですが、グライドパスを行った方がトランスポーテーションの発生を減らすことができる、という報告もあります。安全な根管形成ができる方を選択するべきだと思います。また、往復運動のファイルを使う際は、専用のモーターが必要になります。
その他の第四世代のファイルに、SAFがあります。これは、カゴのような形状で、洗浄液を流しながら根管形成ができるファイルです。SAFも専用のモーターが必要になります。SAFの誕生をきっかけに、根管を拡大するという概念から根管を形成する、あるいは根管壁に触れる、といった表現の方がふさわしいNiTiロータリーファイルが続々と誕生します。
第五世代NiTiロータリーファイル
第五世代になると、オフセットデザインで回転軸をずらして揺れながら動く回転運動:mechanical wave motionが開発されました。ファイルの断面は長方形で、下記の図のように、回転軸をずらしながら揺れ動き、根管のセンターで形成できるようにデザインが考案されています。このような運動により、根管壁に対するファイルの食い込みを減らすことができます。
近代NiTiロータリーファイル:XP-endo
最近では、XP-endoという個性的な運動をするNiTiロータリーファイルが誕生しました。
XP-endoの運動を確認したい方は、この動画をみるとわかりやすいです。
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第四世代のNITiロータリーファイルは、シークエンスを激減させることができましたが、XP-endoはshaperが#30/.01、finisherは#25の2本で、根管形成はshaper1本のみです。finisherは洗浄剤を根管内で撹拌させる役割です。この2本を使うと、右下のような根管を全周触れることができる、を目標としています。実際は、全周形成することはできません。XP-endo shaperの形成方法は、グライドパスを#15まで終えたら、あとはXP-endo1本で#30まで形成できます。XP-endoの先端は、Booster Tipといって、先端が#15となっており、その周囲は#30となっています。洗浄剤の根尖までの到達は、以前の報告だと最低#35まで拡大が必要と言われていました。XP-endoでは、最終拡大号数が#30ですが、細菌減少には十分かどうか検討してみましょう。
#20と#40で根尖を拡大し、デブリスと残存歯髄組織が超音波洗浄を用いたか用いてないかでどのくらい減少したかを比較した報告があります。その結果は、超音波洗浄を使うと#20と#40で同等の結果が出たそうです*。この報告では、細菌を使っていない評価ですから疑問は残りますが、ある基準は設けられそうです。
では、根管充填は#30で形成しただけで上手くできそうか、という問題も浮上します。以前は、continuous wave condensation techniqueといって、ガッタパーチャを加温して、柔らかくなったガッタパーチャを圧接しながら死腔を作らないように充填していく方法でした。continuous wave condensation techniqueでは、器具の太さを考慮せねばならず、便宜的に6%や場合によっては8%というテーパーで根管を拡大する必要がありました。しかし、バイオセラミックシーラーが誕生したおかげで、現在は、single cone techniqueという方法で根管充填することが多くなりました。バイオセラミックシーラーは、従来のシーラーとは異なり、根管内で固まってくれます。single cone techniqueはcontinuous wave condensation techniqueと異なり、特別な器具が必要ではありません。よって、根管充填のために便宜的に根管を太く形成する必要はなくなったのです。
このように、最近ではミニマムに治療をすることがトレンドになってきているようです。
ちなみに、最近では、MI窩洞といって、アクセス窩洞を小さくし歯の破折抵抗を最大限に守るようなコンセプトも出てきています。しかし、MI窩洞については異論を唱える報告もありますので、注目していきたいところです。
NiTiロータリーファイルの進化のまとめ
1990年に誕生したNiTiロータリーファイルは、根管内を安全に形成し、細菌を減少させ、歯質を温存することを目標として、こんなに進化しました。
初期のNiTiロータリーファイルは、根管内で破折することが多くストレスは多かったようですが、電解研磨でファイルの切れ味を良くし、室温と体温の温度差を利用して熱処理加工を開発し、根管内で形成してもファイルを破折しずらくさせ、今度は回転運動から往復運動をさせながら根管壁を触れながら形成していく運動に変化し、近年ではXP-endoのようなファイルが誕生するまでになりました。ここまで進化したのは、洗浄のニードルが30Gや31Gといった細いものを使用できるようになったり、超音波の技術が改良されたり、バイオセラミックシーラーが誕生したり、と、たくさんの改良があるからです。
次回からは、違うトピックになります。
お楽しみに。
*:Lee, O. Y. S., et al. “Influence of apical preparation size and irrigation technique on root canal debridement: a histological analysis of round and oval root canals.” International endodontic journal 52.9 (2019): 1366-1376.