NiTiファイルの歴史編〜マルテンサイトとオーステナイト
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遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
2023年も、ももこ歯科をどうぞよろしくお願い申し上げます。
今回は、マルテンサイトとオーステナイトについてお話しします。
マルテンサイトとオーステナイト
NiTi合金のニッケルとチタンの比率は、ほぼ等比です。
NiTi合金には、マルテンサイト相とオーステナイト相という2つの結晶でできた相があります。
高温の時にできる相をオーステナイト、冷却した時にできる相をマルテンサイトといいます。オーステナイトは硬く、マルテンサイトは柔らかい性質を持ちます。第三世代以降のNiTiファイルにおいて、熱処理加工を施したことにより、湾曲した根管でも以前のNiTiロータリーファイルと比較して、トランスポーテーションを起こしにくくなりました。熱処理加工は、室温と体温の温度差を利用して、オーステナイト開始温度と終了温度を根管内に設定し、マルテンサイト開始温度と終了温度を室温に設定しています。以前のNiTiロータリーファイルで湾曲した根管を形成する際、プレカーブをつけようにも大きな力が必要ですし、プレカーブをつけたところでファイルの先端はラッパ状に回転してしまうので、根尖部の形態は大きく損なわれることになります。しかし、マルテンサイト系のNiTiロータリーファイルは、室温と体温の温度差を利用していますので、室温の時にマルテンサイト相でファイルにプレカーブをつけ、根管内ではオーステナイト相となり真っ直ぐな元の形態に戻るので、ファイルの先端がラッパ状のまま根管形成することはありません。それで、以前のNiTiロータリーファイルよりもトランスポーテーションを起こしにくくなりました。
オーステナイト⇄マルテンサイトの相変態は、温度の変化や応力によって起こることを前回のブログの動画を参考にしていただくとわかりやすいと思います。
では、オーステナイト⇄マルテンサイトの相変態を2種類のNiTiロータリーファイルで比較した動画です。
同じNiTiロータリーファイルですが、室温と体温の温度差を利用すると、材質が大きく変わることがわかると思います。
熱処理加工したNiTiファイルM-Wireといいます。M-Wireは、従来のNiTiロータリーファイルと比較して、ねじれ疲労抵抗を維持しながら、回転疲労抵抗が高くなりました。
ファイルの破折様式
ファイルには、2つの破折様式があります。1つは周期疲労破折、もう一つがねじれ疲労破折です。
周期疲労破折はファイルがどのくらい回転すると破折するか、ねじれ疲労破折は、ファイルを根管内で回転させる際、先端がロックしているにもかかわらず回転している時に起こる破折です。評価について、前者はファイルが破折するまでの回転数と時間、後者が破折した時の最大トルクと回転角度です。
M-Wireは第二世代以前のファイルと比較して、周期疲労抵抗が高くなっているといわれています。一方で、室温から根管内に温度が上昇する際、周期疲労抵抗が減少するという報告もあります。
現在、NiTiロータリーファイルは改良され続けていますが、臨床家が要求するすべての条件を満たすものにはいたってません。
では、何に気をつけてNiTiロータリーファイルを安全に使うか。
ファイルを破折させないようにすること一択です。
可能であれば、ファイルをディスポーザブルで使用する、強引な器具操作をしない=根管のカーブに沿った優しく操作する、等々です。ファイルにツメをつけると便利です。ツメは8枚あり、1回の使用ごとに1つずつツメをはがしていくと使用回数がわかりやすいです。また、フルートが長くなっていたり、ファイル自体が変則的な形態になっている場合は、使用を中止した方がいいです。湾曲した根管を形成する際、外湾側では内湾側よりも大きな円になりますので、フルートは伸びやすくなります。その結果、フルートが長くなり、ファイルの直径は細くなるので、ファイルは破折しやすくなりますから、次の使用を考えた方がいいかと思います。
それでは、次回はいよいよNiTiファイルの歴史最終回とします。
NiTiファイルは、材質だけではなく、運動も改良されています。
お楽しみに。
参考文献
Zupanc, J., Vahdat‐Pajouh, N., & Schäfer, E. (2018). New thermomechanically treated NiTi alloys–a review. International endodontic journal, 51(10), 1088-1103.