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根管治療のこと、噂を聞いて怖いと感じていませんか?

院長ブログ

みなさん、こんにちは。いつも、ももこ歯科のブログを読んでいただきまして、ありがとうございます。

今回のブログは、治療について悪いうわさを聞くと、その治療の不快度はあがるけど、治療を経験することによって、不快度は下がる、というお話です。

Wongら(1)は、軍基地の歯科医院で行っている8つの歯科治療について、アンケートを410名に行い、回収率は410名中349名(85%)、男性243名、女性58名、性別不明48名、30歳以下271名、30歳以上78名でした。

悪い噂を聞いたことがある治療とは?

8つの治療とは、根管治療、抜歯(歯を抜くこと)、充填、クラウン形成、義歯(入れ歯)、クリーニング、診査です。

 

 

 

 

 

図1は、8つの治療について、悪いうわさを聞いたことがあると答えた患者数をグラフで表します。根管治療 (123名)と抜歯(102名)が、他の治療よりもダントツで、悪いうわさを聞いたことがある治療でした。

抜歯よりも根管治療の方が多かった理由は、患者さんが不快な思いをする歯科治療行為は、ドリルの音と麻酔である、と考察に書かれてありました。

根管治療は、大きくて深い虫歯を取り、しばしば痛みが出ている歯の治療を目的にしますから、麻酔もドリルも使いますし、治療前の痛みの印象が強いのかもしれません。抜歯の場合、麻酔は必ず使いますが、ドリルを使わないこともあります。
ちなみに、Wongら(1)の報告では、抜歯と根管治療について、最も不快な、あるいは最も痛かった治療だった、と答えた患者さんは、根管治療経験者52名中17%、抜歯経験者116名中約53%でした。

それから、根管治療も抜歯も治療後に痛みが出る可能性のある治療です。どちらが術後に痛みが出やすいか、私の感覚では、痛みの強弱は別として、抜歯の方が痛みは出やすい傾向にあると思います。

悪い噂でどのくらい不快な気持ちになっているか?

では、患者さんが根管治療と抜歯について、悪いうわさを聞くとどのくらい不快な気持ちになっているか、考えてみます。

Wongら(1)は、不快指数を0から5段階で評価し、0がまったく不快ではない、5が最も不快とすると、根管治療と抜歯がともに3.4で、高い不快指数を示しました。では、患者さんがうわさを聞いたか聞いていないかで、根管治療と抜歯についての不快指数に変化があるかどうか、図2に示します。

 

 

 

 

 

 

 

アンケート実施時に治療を受けた患者数は、根管治療213名、抜歯238名で、抜歯も根管治療も、噂を聞いたことがある患者さんの方が、不快指数は高くなっています。

そこで、今度は、悪い噂を聞いたことのある患者さん(根管治療88名、抜歯81名)が、治療の経験によって、不快指数に差が出るかどうか、Wongら(1)は分析しました(図3)。

図3のグリーンは、根管治療を初めて経験した人の不快指数で、ピンクが、抜歯を初めて経験した人の不快指数です。

 

 

 

 

 

根管治療を初めて経験した患者さんは、抜歯の経験があろうとなかろうと、高い不快指数を示します。しかし、根管治療を一度経験すると、抜歯の経験の有無にかかわらず、不快指数は、根管治療初体験者と比較し、低くなっています。
特に、抜歯の経験がなく根管治療の経験がある患者さんは、今回根管治療を行なった際、図2の噂を聞いたことがない人の不快指数3.2を大幅に下回る2.4という結果になっています。

次に、抜歯を初めて経験する患者さんは、根管治療の経験がある場合の不快指数は3.0で、根管治療の経験がない場合の不快指数は4.1と、根管治療が初体験の場合と異なり、差があります。これは、抜歯といえども、横にはえている親知らずを抜歯するような難易度が高い抜歯から、まっすぐにはえている歯を抜歯するような簡単なものまで混ざっているためと思われ、また、根管治療の経験があり抜歯が初体験の患者さんは2名のみなので、不快指数が3.0という結果の理由を考察するのは、なかなか難しいと思われます。

しかし、根管治療の経験がなく抜歯初体験の患者さんの不快指数は、4.1でした。抜歯を経験したことのある患者さんの結果と比較すると、明らかに差があることがわかります。

不快な経験を予防し患者の不安を減少させるには?

このように、悪い噂を聞いたことがあっても、根管治療や抜歯を経験することで不快指数は下がることがわかります。ただし、ここで考えなければいけないことは、不快指数が下がったとしても、依然としてハイレベルな不快指数を保っているのが、根管治療です。

根管治療は、痛みを取るための治療であることを患者さんに正しく知ってもらうためには、歯科医師による日々の努力が必要です。

Wongら(1)は、考察の最後で、こう締めくくっています。
「まず、歯科医師は患者の不安を取り除くこと。それから、患者に対して、親切で痛みのない治療を提供することにより、患者が聞いたうわさを取り除き、不快な経験を予防し患者の不安を減少させることができれば、患者自ら根管治療のイメージをポジティブなものだ、と伝えてくれるでしょう。」

長くなりましたが、そうはいっても、歯科治療はなかなか苦痛を伴います。そんな時間でも少しはリラックスできるといいですね。

Nassoら(2)は、100名の患者さんを432Hzの音楽を聞いたグループ50名、聞かなかったグループ50名に分けて、心拍数、拡張期血圧、収縮期血圧を計測した結果、音楽を聞いたグループの方が心拍数、拡張期血圧、収縮期血圧が、根管治療中・後に減少していた、と述べています。この論文で使われていた432Hzの音楽は、Stefano Crespan Shantamの1: lotus, 2: summer, 3: signs, 4: white flower, and 5: melody という曲目です。

根管治療の痛みシリーズもいよいよ終盤です。

次は、治療後の痛みについて焦点をしぼります。お楽しみに。

(1) Wong, Marston, and W. Reed Lytle. “A comparison of anxiety levels associated with root canal therapy and oral surgery treatment.” Journal of Endodontics 17.9 (1991): 461-465.

(2) Di Nasso, Luca, et al. “Influences of 432 Hz music on the perception of anxiety during endodontic treatment: a randomized controlled clinical trial.” Journal of endodontics 42.9 (2016): 1338-1343.