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- 2018.9.6
根管治療にCTは必要でしょうか??
そろそろ夏の暑さも和らぐ季節になりますが、いかがお過ごしでしょうか?さて、本日のブログのテーマは、先日患者様からいただいたお問い合わせ内容についてです。
最近ではCTを撮影する機会が増えてきています
「根管治療の時、CTって必要ですか?通院中の歯科医院で、『発見しづらい根管があるので、根管のあるかないかは、CTを撮影すればわかるから、CTを撮影してから根管治療を始める』と言われました。こんなことを言われたのは初めてだったので、最近では一般的なことですか?」
一般的かどうかといえば、今のところまだ一般的ではありません。一般的なのは、デンタルと言って、お口の中にフィルムを入れて撮影するレントゲンの方がずーっと一般的です。
しかし、最近ではCTを撮影する機会が増えてきているのも事実です。
患者さんの利益が、被爆量や患者さんが受けるであろう不快感や苦痛に勝る場合に限って、あらゆる検査を患者さんに依頼することができます。
では、実際どのような場合に、これから根管治療を受ける患者さんがCTを撮影することになるか、です。
American Association of Endodontics(アメリカ歯内療法学会)でのCBCT撮影要件です。
このステートメントによると、歯内療法でCT撮影が必要になる場合、照射野は制限して撮影をすることが提唱されています。たしかに、歯内療法領域でCTの画像情報が必要とされる場合は、ターゲットとなる歯とその隣接領域の情報だけで済みます。
それから、なぜCTの画像情報が必要か、というと診断が難しいときです。
ステートメントに書かれている内容は、以下の通りです。
- 臨床症状と診断が矛盾しているとき
- デンタルで診断が難しい時
- 病変の確認
- 非歯原性疼痛との鑑別診断
- 解剖学的な構造が複雑だと判断した時
- VRF(未修復な歯の場合)
- 治癒の評価
外科的歯内療法か非外科的歯内療法か、治療方針を決定する時
おそらく、問い合わせのあった内容を推測すると、
5. 解剖学的な構造が複雑だと判断した時
だと思います。
特に、一度でも根管治療の経験がある歯をもう一度根管治療をする場合、解剖学的な構造が複雑化していることがあります。
しかし、問い合わせは、根管の有無をCT撮影で確認するかしないか、という内容で、おそらく上顎大臼歯近心頬側根ではないかと考えられますから、上顎大臼歯近心頬側根を例に挙げてお話しします。
上顎大臼歯近心頬側根に2根管ある可能性は、抜去歯の実験で51.4~95.2%、
診療をしている環境下で33.1~95.2%で、抜去歯で行なった実験結果の方がわりと高率で2根管ある場合が多く、
診療をしている環境では、上顎大臼歯近心頬側根に2根管は見つかりにくいことがわかります。
ただし、マイクロスコープを使うと、上顎大臼歯近心頬側根に2根管を発見できる確率が上がるのは事実のようです。
よって、マイクロスコープがあると、診療をしている環境下でも上顎大臼歯近心頬側根に2根管を発見できる確率が上がります。
上顎大臼歯近心頬側根の2根管目は非常に小さな根管で、発見できたとしても、1根管目と繋がってしまうことがあったり、複雑な走行をしていることが多いです。
また、多くの上顎大臼歯近心頬側根の2根管目は石灰化しているため、削ってやっと見つけられますから、こんなに削ったら穴があいてしまうのではないか、と術者は不安になることも事実です。
ステートメントにあるように、
5. 解剖学的な構造が複雑だと判断した時、
この時点でCTは撮影してもいいのではないか、と考えます。
1990年代からマイクロスコープが流通し、数多くの上顎大臼歯近心頬側根に2根管を発見できるかどうか、研究が多数出ました。
しかし、マイクロスコープを使えば、必ず上顎大臼歯近心頬側根に2根管を発見できるか、と言えば嘘になります。
ここで大前提として必要な知識は、上顎大臼歯近心頬側根の2根管目はどこにあり、どうやって発見することができるか、どういうツールを使えばいいのか、等々です。
これらの知識があってこそ、マイクロスコープやCTからの情報が役立ちます。
以前のブログでも書きましたが、初めて来日した外国人が迷わずに東京タワーへたどり着く確率が、日本在住の日本人とどのくらい差があるか、予測の範囲ですが、みなさん自ずと想像はつくと思います。
最近は、インターネットの普及により、結果を出すまでの時間が短くなっています。特に歯科医院を訪れる患者さんは、痛みや腫れといった炎症による不快症状を抱えている場合が少なくありません。この苦痛をなんとか速く葬り去ってほしい、と患者さんは思っていますから、診断は焦る必要はありませんが、急ぐことは必須です。
冒頭で、根管治療でCTを撮影することは一般的か、あるいはよくあることなのか、という質問について、私個人的な意見ですが、将来的には、一般的になる日も近いかもしれません。
Oral Pathology 28.3 (1969): 419-425.(2) Seidberg, Bruce H., et al. “Frequency of two mesiobuccal root canals in maxillary permanent first molars.” The Journal of the American Dental Association 87.4 (1973):
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(3) Neaverth, Elmer J., Lawrence M. Kotler, and Robert F. Kaltenbach. “Clinical investigation (in vivo) of endodontically treated maxillary first molars.” Journal of
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(4) Kulild JC, Peters DD. Incidence and configuration of canal systems in the mesiobuccal root of maxillary first and second molars. J Endod 1990;16:311–7.
(5) Stropko, John J. “Canal morphology of maxillary molars: clinical observations of canal configurations.” Journal of endodontics 25.6 (1999): 446-450.
(6) Sempira, H. N., and G. R. Hartwell. “Frequency of second mesiobuccal canals in maxillary molars as determined by use of an operating microscope: a clinical study.”
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