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2021.1.17

折れたファイルを取るべきかどうか〜ファイルを取る意思決定〜

ももこ歯科のブログを読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。

今回は、根管内で折れたファイルを取るべきかどうかシリーズの、ファイルを取る意思決定についてです。実際の症例を挙げてお話しします。

患者さんは、44歳女性。
アイスを食べた時、左上の歯がすごく痛かったことを主訴にももこ歯科を受診しました。

診査の結果、左上顎第二大臼歯が原因の不可逆性歯髄炎と診断し、抜髄(=根管治療)を行うことにしました。

根管治療中に、ファイルが折れた位置を確認したレントゲンが左上です。根管の中央部分に折れたファイルがあります。
私は、折れたファイルを取る意思決定をしました。

理由は、根管の途中で、細いファイルが折れてしまったので、根尖部まで十分に清掃できていないからです。ファイルを除去すれば、適切な太さのファイルで根尖部をキレイに清掃できた結果、歯内療法の目的である『根尖性歯周炎の予防と治療』を達成できます。

ファイルが折れたことは、患者さんにお話ししました。
根管治療中にファイルが折れて根管内にあること、折れたファイルを除去した方が根管をきれいにできて、病気の再発がしにくいこと、もし折れたファイルが取れない状況になればその時点でファイルを取ることをやめ、何か症状が出た場合に外科的歯内療法で症状の改善とファイルの除去を試みる、と説明したところ、折れたファイルを除去することにご同意いただけました。

最終的にファイルをきちんと除去できたかどうか、確認するために撮影したレントゲンは右上です。この後、通常の機械的拡大を#40まで行い、根管内を清掃しました。

ファイル除去後の経過観察について

上のレントゲンは、ファイルを除去した後、根管充填直後と1年経過観察の比較です。患者さんの症状と2枚のレントゲンともに、根尖性歯周炎を発症しておらず、経過良好です。

ファイル除去をする時の注意点

穿孔やレッジ形成、あるいは歯根破折です。

穿孔は、以前のブログでもお話しした通り、歯のどこかに穴が開くことです。
折れたファイルの周囲にある歯質を削ってファイルを除去しますから、歯のどこかに穿孔を起こす可能性があります。

レッジ形成とは、理想的な長さで根管をきれいにできない状況を作ってしまうことです。たとえば#40のファイルで、根管を15mmの長さまで清掃しなければいけないのに、15mmより短い長さで清掃することになると、短くなった分、細菌を取りきれない可能性があります。

上の図*は、2種類のレッジ形成を示します。
左側は、レッジ形成により理想的な長さよりも短く根管を拡大しています。ファイルが太くなるほど根尖まで入りにくくなることがあります。そうすると、理想的な長さよりも短く根管を清掃することになってしまうのです。
右側は、オリジナルの根管から逸脱して新たに根管を作ってしまった状態です。曲がった根尖部分にファイルが到達していないので、レントゲンを撮ると実際の根管の形態よりもまっすぐに拡大されており、レッジを作っているかどうかがわかります。

ファイルを除去するために、周囲にある歯質を削って穿孔やレッジを作り、理想的な位置で根管を清掃できないため、細菌を十分に取りきれない結果、歯内療法の目的である『根尖性歯周炎の予防と治療』を達成できない可能性があります。
また、長期的には、歯質を削りすぎると歯根破折のリスクも高くなります。
穿孔やレッジ形成を起こしてしまうほど歯質を削ればファイルが除去できると判断した場合は、ファイルを除去しない意思決定をする必要があるかもしれません。

次回は、ファイルを除去しない意思決定をしたケースについてです。
お楽しみに。

*Lambrianidis, T. (2006). Ledging and blockage of root canals during canal preparation: causes, recognition, prevention, management, and outcomes. Endodontic Topics, 15(1), 56-74.

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