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2015.11.10

マイクロスコープ(顕微鏡)は、根管治療で大活躍?!

みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
私は、9月の山が終わっても、抜去歯30本の提出があったり、峠は越せず、さらに登り続ける、といった感じです。富士山は登れても(登ったことないけど)、エベレストは高すぎて遠い、終わりなき旅と化しています。

でも、来年のアメリカ研修は楽しみです。おっと、その前にサンフランシスコで行われるAAE(アメリカ歯内療法学会)がありました。これまた楽しみ。私の好きな歌が頭の中でグルグル回ります。♪ロスか〜らサンフラ〜ンシスコへ つづく〜フリーウェイロード…♪オープンカーで走ったら、気持ちいいんだろうなー。

さて、根管治療において、もはやマイクロスコープ(顕微鏡)は必要なツールです。はたしてどのような活躍をしてくれるのでしょうか。どんな根管でも発見してくれるのでしょうか。

このブログで一番訴えたいことは、マイクロスコープは、根管治療において重要なツールではありますが、もっと大切なのは、安全性を追するために使っている、ということ。
ここで例として挙げている上顎大臼歯近心頬側第二根管の発見率を上げているのは、マイクロスコープであるのは理由の一つではありますが、術者が、どこに上顎大臼歯近心頬側第二根管が存在し、どうやったら発見できるかを知っていることの方が大事です、というお話です。
つまり、術者が、上顎大臼歯近心頬側第二根管についてよーく知っているから、マイクロスコープを使ってこそ、上顎大臼歯近心頬側第二根管を安全に探索できるのです。

マイクロスコープの有用性に関しては、見落とされやすい根管として有名な、上顎大臼歯近心頬側第2根管を使って多数報告されています。どのくらいの確率で発見できるか。
マイクロスコープ、拡大鏡や肉眼で、発見率にどのくらいの差が出るかどうか、等々です。

以下に、ご紹介します。

1.上顎大臼歯近心頬側根管の探索をマイクロスコープと超音波チップをルーチンに使っていたグループとルーチンに使っていなかったグループを比較(in vivo)

Stropko JJ. Canal morphology of maxillary molars: clinical observations of canal configurations. J Endod 1999;25:446 –50.
1989年7月から1997年の8年半にかけて、1732本の上顎大臼歯に根管治療を行いました。
上顎第一大臼歯近心頬側第二根管の発見率は、全体として73.2%でしたが、後半になると93.0%に上昇しました。
なぜ発見率が上がったか?
理由は、初期の頃拡大鏡とヘッドランプ、マイクロスコープを使っていましたが、後半になるとマイクロスコープをルーチンに使っていたこと、術者が経験を積んだこと、十分な治療時間、そして、改良された超音波チップを使っていたこと、が挙げられていました。

拡大鏡よりもマイクロスコープの方が、拡大倍率は優位に高いのです。
それから、術者の経験はもちろん大事なファクターです。
しかし、コアな部分でもっと大事なことは、どこに近心頬側第二根管が存在するかを知っていることです。
経験を積んで養えることは、勘所だと思います。これ以上〇〇したら危険だ、等々の勘所は、経験によって培われるところだと思っています。

2.上顎大臼歯近心頬側根管の探索をマイクロスコープ、拡大鏡、肉眼の各グループごとに比較した場合(in vivo)

Buhrley, Louis J., et al. “Effect of magnification on locating the MB2 canal in maxillary molars.” Journal of endodontics 28.4 (2002): 324-327.

312本の上顎大臼歯近心頬側第二根管の発見率は、マイクロスコープのグループ:57.4%、拡大鏡のグループ:55.3%、肉眼のグループ:18.2%でした。
肉眼と拡大グループ(マイクロスコープと拡大鏡)間では有意差がありました。しかし、マイクロスコープと拡大鏡のグループ間において、有意差はなかったと報告しています。

意外ですよね?では、どんなカラクリがあったか。

各グループで、上顎大臼歯近心頬側第二根管を発見できなければ、拡大率を上げていったのです。例えば、近心頬側第二根管が発見できなければ、マイクロスコープのグループは倍率を上げる、拡大鏡のグループはマイクロスコープに変更、肉眼のグループも拡大鏡→マイクロスコープに変更していく。よって、上顎大臼歯近心頬側第二根管の発見率は、マイクロスコープと拡大鏡のグループ間に有意差がなかったのです。

3.歯内療法専門医が、マイクロスコープの有無によって、上顎大臼歯近心頬側第二根管の探索と穿通をできるかどうかを比較した場合(in vitro)

Ömer Görduysus, M., Melahat Görduysus, and Shimon Friedman. “Operating microscope improves negotiation of second mesiobuccal canals in maxillary molars.” Journal of endodontics 27.11 (2001): 683-686.

45本の抜歯した上顎大臼歯の近心頬側第二根管の発見について、はじめはマイクロスコープを使わずに行い、探索できなかった場合はマイクロスコープを使って、それでも見つからない場合は、切片を作製しました。
切片作成の意味は、本当に近心頬側第二根管が存在するかどうかを確認するためです。
発見率は、肉眼で93%、マイクロスコープを使ったら96%と、あまり変わりませんでした。
では、ここで問題となるのが、ファイルを歯根の先まで通すことができるか、肉眼とマイクロスコープでは差が出るかどうかです。発見後にファイルを穿通(ファイルを根管に通すこと)できるかどうか。
肉眼は69%、マイクロスコープを使うと80%まで上昇しました。
以上のことから、マイクロスコープは、上顎大臼歯近心頬側第二根管の発見率を上げるのではなく、ファイルを穿通させることができる一助となる、とオーサーらは結論付けていました。

 

上記1、2、3いずれも、マイクロスコープ根管治療において有用であろうことはわかると思います。
上顎大臼歯の近心頬側第二根管のような非常に細く小さな根管を発見することは、肉眼だと難しそうですが、歯内療法専門医は肉眼でも93%の高率で発見しました。
彼らはどこに根管があるか、どうやって見つけるかをよく知っています。
いくらベンツ級のマイクロスコープを持っていたとしても、どこに目的の根管があるのかを知らなければ、マイクロスコープは宝の持ち腐れになってしまいます。

例えば、来日したばかりの外国人が、いきなり東京タワーに行くことはなかなか難しいです。いくらガイドブックやインターネットを駆使して下調べをしていようとも、私たち日本人に比べると、迷う確率は高い。なぜなら、私たちは東京タワーを何度となく見ているし、どこにあるかを知っているし、何より日本の交通網をよく知っています。土地勘があるから東京タワーに迷わず行ける、ということは、歯内療法専門医がマイクロスコープを使わずに、上顎大臼歯の近心頬側第二根管を発見できたのと同じように思えます。

 

根管治療のみならず、あらゆる治療において、視野と術野の確保は、治療を成功に導く一歩となります。
根管がどこにあるか、どうやったら発見できるか、を事前に知っておくことが大切です。その上で、マイクロスコープを使った根管治療はより意味深いものになると思います。

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