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- 2020.7.20
穴があいてる歯は治るか〜part3根尖部穿孔外科的歯内療法編〜
ももこ歯科のブログを読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。
今回のブログは、比較的予後が良い根尖部の穿孔でも、トランスポーテーションが起こると、根管治療のみで治る確率は低くなる、というお話です。
トランスポーテーションとは何か?
図は以下の論文から引用しています↓
Lambrianidis, T. (2006). Ledging and blockage of root canals during canal preparation: causes, recognition, prevention, management, and outcomes. Endodontic Topics, 15(1), 56-74.
根管を拡大する時、ファイルという器具を使います。
本来であればオリジナルの根管にそってファイルを根尖方向に進めますが、トランスポーテーションが起こると、拡大予定だった根尖付近(白い矢印)とは異なる根管を新たに作ることになり、根尖の掃除が不十分になります。
トランスポーテーションが起こるとどうなる?
以前のブログでもお話ししましたが、根管で一番汚れている部分は根尖です。根尖部を十分に掃除できなければ、根管治療だけでは治りにくくなります。
トランスポーテーションがある歯は、根管治療だけで治る確率が35.6%*です。
よって、トランスポーテーションが起こっている歯を治す場合、根管治療+外科的歯内療法を予定しておく方が適切です。もちろん、根管治療のみで治れば外科的歯内療法は必要ありません。ちなみに、いろいろな分類があるので一概には言い切れませんが、根管治療+外科的歯内療法の成功率はおおよそ90%です。後日、外科的歯内療法の成功率についてお話しします。
では、トランスポーテーションがある歯の経過をみていきましょう。
トランスポーテーションの症例
患者さんは、28歳女性。
主訴:腫れてて出っ張ってる感じがする
初診日:2018年7月9日
現病歴:2018年2月 右上前歯に痛みがあり、他院で根管治療をしているが一向に改善しない。根管充填まで行ったがしばらくしてまた痛くなり、
2018年4月に根管治療をやり直した。
2018年7月、根管治療中の痛みを訴え、ももこ歯科を受診されました。
術前の診査・レントゲン・CT画像(白い矢印)から、根尖部にトランスポーテーションが起こり、新たな根管を作り、歯根に穴が開き、根尖部の清掃が十分にできないため、根管治療を何度かやり直しても痛みや歯肉の腫脹が治まらなかったのではないか、と考えました。
根管治療前後の口腔内写真を見ると、腫れはずいぶん改善しています。患者さんも根管治療中から痛みはなくなり、満足していらっしゃいましたが、膿の出口が治っていません。そこで、歯根端切除術を行いました。
歯根端切除術後1年4ヶ月経過時のレントゲンを見ると、根尖部の黒い影が縮小し、膿の出口はなくなり、痛みも腫れもなく経過良好です。
前回のブログで、穿孔があり感染を起こしている歯が治療により治る要件は、
①封鎖 ②時間 ③大きさ ④部位
です。これらを軸に考察します。
治った理由を考察する
①封鎖 ②時間 ③大きさ ④部位
時間は前回の治療からさほど経過しておらず、比較的予後が良好な根尖部の穿孔で、封鎖性の良いMTAで根尖部の封鎖をしても根管治療で治癒しませんでした。トランスポーテーションが起こり、汚れている根尖部分を清掃できなかったことと、細菌による感染力の方が強かった、それから、根尖部のサイズが#90でしたから、#20を優に超える大きさだったのも、根管治療のみで治癒できなかったと考えています。
以前のブログでお話ししたように、根管の中で一番汚れている部分は根尖部です。トランスポーテーションを起こすと、根尖部の清掃が不十分になり細菌が残るので、痛みや腫れが出たり、膿の出口を作ったり、生活する上で不快な症状が出現します。もし、根管治療のみで症状が改善しなければ外科的歯内療法を行うと治る可能性があります。何度も根管治療を行っているのに治らないから抜歯にはなりません。抜歯の前に外科的歯内療法で歯を残す方法があります。外科的歯内療法を行っても治らなければ抜歯になります。
外科的歯内療法は、マイクロスコープと材料や器具の進化により、現在の成功率は高くなっています。トランスポーテーションを診断することは簡単ではありませんが、コンセプトを厳守した根管治療を行っているのに治らない場合は、外科的歯内療法で治る可能性が高くなります。
次回は、穿孔のつづきです。
お楽しみに。
*Gorni, Fabio GM, and Massimo M. Gagliani. “The outcome of endodontic retreatment: a 2-yr follow-up.” Journal of Endodontics30.1 (2004): 1-4.