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2017.4.26

歯の神経を抜く必要が、その歯はあるでしょうか?

みなさんこんにちは。
今回のブログは、歯の神経を抜かない治療法:生活歯髄療法のご紹介です。
歯科医院に訪れる患者さんは、痛みをきっかけにいらっしゃいます。
冷たいもの・温かいものにしみる、虫歯で穴があいていて、食べ物がつまると痛くなる、また、患者さんから、「『虫歯をけずっていたら神経が出てきたので、神経を抜きました』と、担当歯科医師から言われた」というコメントをいただくこともあります。

必ずしも、冷たいもの・温かいものにしみたから確実に治すために、あるいは、食べ物が詰まると痛いから、虫歯を削っていたら神経が出てきたから、という理由で神経を抜くことはありません。
このような症状があっても、歯の神経を保存できる場合があります。

では、歯の神経を抜く、抜かない、はどう判断していくか。
以前のブログにも書きましたが、歯の神経を歯髄といいます。
歯髄の炎症が、可逆性か不可逆性か、で歯髄保存の可否が決定します。
可逆性とは、感染しているところだけ取り除けば、歯髄の炎症は改善する状態で、不可逆性は、感染が広範囲に存在するために、炎症はおさまらない状態のことです。

本来であれば、炎症を認める、細菌感染の部分だけを取り除き、歯髄を正常に機能させられることが理想です。
歯髄に炎症が起こっている部分は、循環障害が起こっているため、血液の流れは潤滑ではありません。
一方で、正常な歯髄は血液が潤滑に流れています。
しかし、現在において、歯髄の炎症部分と健康な部分が判別できるようには、残念ながらいたっていません。
それでも、その歯がどんな状況なのかを知って、はじめて診断ができます。
正常な血流が存在するかもしれない・・・・・・歯髄の状況を知るためによりどころとして、歯の神経と、歯根周囲の反応を診査して、判断します。

 

歯髄の反応を診る診査項目を図1に示します。
冷たいもの、温かいもの、電気に対してどんな反応をするか、診査します。
冷たい刺激を感じる神経と温かいものを感じる神経は異なる、と言われています。
温度に対して、歯の神経がどう反応するか、に加えて、電気による反応もみます。

歯髄の状態を客観的に判断するために、この3項目は必須です。

次に、歯根周囲の診査(図2)をします。

 

歯をコンコンと叩いて痛みがあるかどうか、根の先を軽く押したときに痛みを生じるかどうか、これらは、歯髄の炎症が、根の先に広がっているか否かを確認する診査です。
歯周ポケット検査は、歯周病がどのくらい進行しているか、それから、歯根破折が存在しているかどうか、をみていきます。
歯根破折の確定診断は、直接目で見ることですが、歯周ポケット検査をすることで、有益な情報を得られます。

それから、図にはありませんが、歯がグラグラしているかどうかも診査します。

以上が、歯髄と歯根周囲に関する状態の診査項目です。
問診で患者さんに以前に痛みがあったかどうか、また、現在も痛みがあるかどうかを聞くことは重要な所見になります(1)
正確な診断をするために、両隣の歯も同時に診査を行うことは、必須です。

診査によって、歯髄や歯根周囲の状態が正常と診断されれば、歯髄は保存可能で生活歯髄療法を、異常であれば保存不可能により根管治療がそれぞれ適応になります。

では、歯髄保存を試みた治療:生活歯髄療法を行ったケースをみていきましょう(図3)。

 

23歳女性。右下の歯が冷たいものを食べた時にしみる、と、ももこ歯科を受診しました。

左側は術前のレントゲンです。

矢印で指す歯の頭の部分(歯冠部)全体の約1/3〜1/2にかけて大きな黒い影があります。
この黒い影は、虫歯で、歯髄の近くまで広がっています。
診査を行ったところ、歯髄の反応は正常でしたから、根管治療ではなく、生活歯髄療法を行いました。

虫歯を取っていくと、歯髄が露出したので、虫歯菌に感染していると思われる歯髄を除去し、MTAというセメントをつめて、被せ物をセットして終了です。
現在、術後約3年経過しており、経過良好です。

このケースのように、経過良好のケースばかりではありません。
術後に痛みが出て、最終的には、根管治療が必要になるケースもあります。
ただし、健康な歯髄があれば、根尖性歯周炎は起こりません。
歯髄は、最良の根管充填剤といわれています。

生活歯髄療法がうまくいく秘訣は、2つ。

  1. 正しい診断をすること
  2. 術中術後における感染のコントロールを徹底すること

 

当然のことながら、診断を正しく行うこと。
術中は、ラバーダム防湿はもちろんのこと、感染源を徹底的に除去し、術後は早く被せ物をセットすることで、唾液が歯に侵入することを防ぎます。
歯を細菌感染から徹底的に守れば、歯髄は保存でき、歯内療法の目的である根尖性歯周炎の予防は達成される可能性が高くなります。

その歯が神経を抜いた方がいいかどうか、もう一度、考えてもいいかもしれません。
いつでもご相談ください。

次回は、歯の神経を抜くと、歯が弱くなるかどうかのお話です。

お楽しみに。

(1) Seltzer, Samuel, I. B. Bender, and Murray Ziontz. “The dynamics of pulp inflammation: correlations between diagnostic data and actual histologic findings in the pulp.” Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology 16.7 (1963): 846-871.

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