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2017.2.6

歯根の治療の方法パート1〜機械的拡大について〜

みなさんこんにちは。
歯根の治療(根管治療)の目的は、歯と歯根の中にある細菌を除去し、根の先の膿(根尖性歯周炎)を作らない、あるいはより確実に治すことです。
今回のブログは、根管治療の方法で、細菌を減らすために主役として活躍してくれる機械的拡大のお話です。

機械的拡大とは、2017年1月26日のブログでお話したように、切削器具を使って、根の中で細菌に感染しているところを除去することです。機械的拡大の効果を最も発揮させるには、基本コンセプト無菌的処置で、歯の中に細菌を入れさせない処置ラバーダム防湿可能な限り器具をディスポーザブル化する歯の消毒をするを行った環境設定が大前提です。
機械的拡大は、『ファイル』という器具を使って、細菌を除去します。

図1は、機械的拡大前・中・後を示します。術中写真で白い矢印が指しているものをファイルと言います。術前よりも術後の根管の方が太くなっています。拡大操作は、細いファイルから徐々に太いファイルを根管の中に入れて、感染しているところを掻き出していくイメージです。

『ファイル』は、2種類あります。
ひとつは、ニッケルチタンファイル(図2)、もう一つはステンレススチールファイル(図3)です。ニッケルチタンファイル(図2)は、いわゆる形状記憶合金で、どんなに曲げても、曲がったままにはほぼなりません。一方、ステンレススチールファイル(図3)は、曲げた分だけ曲がる性質です。

以上から、機械的拡大を行う際、もう一つの基本コンセプト解剖形態の維持を守るためには、根管に対して優しい器具操作ができるニッケルチタンファイルの方が、ステンレススチールファイルよりも、根管の解剖形態を壊しにくいだろうということは、想像できると思います。

では、機械的拡大のみで細菌をどのくらい減らすことができるのでしょうか?
1998年に、Daltonら(1)は、根の先に膿を持つ(根尖性歯周炎)48歯の根管治療を行う際、ニッケルチタンファイル(青い線)とステンレススチールファイル(緑の線)で機械的拡大をしたとき、どちらが根管から細菌を多く除去できるか、検証しました(図4)。X軸は、機械的拡大前・中・後を、Y軸が細菌数を対数で表しています。
オレンジのラインは対照で、細菌には感染していない根管内を拡大した場合です。
結果は、ファイル間で、細菌の減少量に関しては、ほぼ差がないと言えます。
しかし太いファイルで、徐々に拡大を行なっても、グラフの傾きが緩やかになっているのは事実です。
機械的拡大単独で、細菌を理想的に減らすことはなかなか難しいようです。

ではなぜ、機械的拡大単独だと、細菌を理想的に減らすことが難しいのでしょうか?その理由は、根管の解剖形態が複雑で、いくら太いファイルで根管を拡大しても、すべての根管とファイルが接触するとは限らないからです。
図5は、あるニッケルチタンファイルを使って、上顎大臼歯の根管を機械的拡大前後で、根管とファイルがどのくらい接触したかをμCTで評価したものです(2)
左端は根管を拡大する前のオリジナル形態で、中央が拡大後の根管形態、そして、右端は中央と同じ状況で、ファイルと根管が接触しているかどうかを色分けしています。赤色はファイルと根管が接触しているところで、緑色がオリジナルの根管形態、すなわちファイルが触れていないところです。
Petersら(3)は、ファイルに接触していない部分は35%かそれ以上であった、と報告しています。

では、どうすれば細菌をもっと理想的に減らすことができるのでしょうか?
それは、『洗浄剤』と『貼薬』が必要になります。
要するに、『薬』によって、細菌を化学的にやっつけます。
機械的拡大が無菌的処置の主役であれば、『洗浄剤』と『貼薬』は脇役です。

次回のブログのテーマは、『洗浄剤』と『貼薬』についてです。お楽しみに。

  1. Dalton, B. Clark, et al. “Bacterial reduction with nickel-titanium rotary instrumentation.” Journal of endodontics11 (1998): 763-767.
  2. Peters, O. A., et al. “ProTaper rotary root canal preparation: effects of canal anatomy on final shape analysed by micro CT.” International endodontic journal2 (2003).
  3. Peters, O. A., K. Schönenberger, and A. Laib. “Effects of four Ni–Ti preparation techniques on root canal geometry assessed by micro computed tomography.” International endodontic journal3 (2001): 221-230.

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